法改正で実効税率が変更される場合に連結財務諸表で何をすべきか考える
防衛特別法人税が創設される予定ですね。
ASBJから2025年2月20日に以下の文書が公表されています。
補足文書「2025年3月期決算における令和7年度税制改正において創設される予定の防衛特別法人税の税効果会計の取扱いについて」の公表|企業会計基準委員会
この文書で、実効税率の計算方法がはっきりしました。
(定額控除の500万円は実効税率に含まず、税率差異になるようです)
実効税率の算定方法が分かったので、法改正により実効税率が変更される場合に連結決算では何をするべきなの?ということを考えてみます。
実効税率が変わった場合の会計処理(原則)
法改正により実効税率が変わった時にどうするかについて、税効果会計に係る会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第28号)に次のように書いてあります。
| 一時差異の種類 | 修正差額の処理 | 適用 指針 |
| 基本(下記以外) | 当該税率が変更された年度において、法人税等調整額を相手勘定として計上 | 51項 柱書 |
| 資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等(直接純資産の部に計上) | 当該税率が変更された年度において純資産の部の評価・換算差額等を相手勘定として計上 | 51項(1) |
| 資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等(その他の包括利益で認識した上で純資産の部に計上) | 当該税率が変更された年度においてその他の包括利益を相手勘定として計上 | 51項(2) |
| 連結財務諸表で子会社に対する投資について親会社の持分変動による差額(直接資本剰余金に計上) | 当該税率が変更された年度において資本剰余金を相手勘定として計上 | 51項(3) |
| 子会社の資産及び負債の時価評価により生じた評価差額 | 当該税率が変更された連結会計年度において、法人税等調整額を相手勘定として計上(子会社の税率で計算) | 52項 |
| 未実現損益の消去に係るもの | 税法の改正に伴い税率等が変更されても修正しない |
56項 |
ということですので、これに従って処理をすればよいわけですね。
実効税率が変わったらどの繰延税金資産・負債を再計算するのか
繰延税金資産・負債は、基本的には「解消するときの税率」で計算します。
そして、決算時点で法律で国会で成立している法人税等に規定されている税率を使います。
税効果会計に係る会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第28号)
45. 税効果会計基準では、繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算するものとされている(税効果会計基準 第二 二 2)。
46. 法人税及び地方法人税について、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している法人税法等(法人税及び地方法人税の税率が規定されている税法をいう。以下同じ。)に規定されている税率による。
防衛特別法人税等についても、以下のように書かれています。
<補足文書> 2025 年3月期決算における令和7年度税制改正において創設される予定の防衛特別法人税の税効果会計の取扱いについて
11. 改正税法が2025年3月31日までに成立した場合、同日に決算日を迎える企業にあっては、税効果会計の適用における2026年4月1日以後に開始する事業年度に解消が見込まれる一時差異等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に際して、防衛特別法人税の影響を反映する必要があると考えられる。
つまり、防衛特別法人税等については、2025年3月中に国会で成立した場合、下の図の実効税率を用いて繰延税金資産・負債の計算を行うことになります。

ここで一つ例外があります。それは、連結決算における未実現利益の税効果についてです。未実現利益の税効果については、「一時差異発生時の税率」を使って計算することとされています。
つまり、未実現利益の税効果分については、実効税率が改定されても再計算を行いません。
税効果会計に係る会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第28号)
131. このように、未実現損益の消去に係る税効果会計については、資産負債法(第89項(1)参照)の例外として繰延法(第89項(2)参照)が採用されている。89. 税効果会計の方法には、資産負債法のほかに繰延法がある。
(省略)
(2) 繰延法
繰延法とは、会計上の収益又は費用の額と税務上の益金又は損金の額との間に差異が生じており、当該差異のうち損益の期間帰属の相違に基づくもの(期間差異)について、当該差異が生じた年度に当該差異による税金の納付額又は軽減額を当該差異が解消する年度まで、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する方法である。 したがって、繰延法により計上する繰延税金資産又は繰延税金負債の計算に用いる税率は、期間差異が生じた年度の課税所得計算に適用された税率である。
実効税率が変わった場合の個々の取引の処理
先ほど引用した適用指針によれば、基本的には繰延税金資産・負債を再計算し、差額を計上時の相手で計算すればよいということが分かります。(51項柱書、(1)、(2))
そして、子会社の取得時に行う子会社の資産・負債の時価評価に関する繰延税金資産・負債については、税率変更時の法人税等調整額とします(51項(3))
具体的に考えてみた表
考えられる取引を挙げて、対応を表にしてみました。
| 項目 | 例 | 使用する税率 | 税率を修正(再計算)した差額の処理 | 税効果適用指針 |
| 資産または負債の評価替え(包括利益で認識)※退職給付以外 | その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ | 解消時の税率 | 税率が変更された年度に、その他の包括利益を相手勘定として計上する | 51項(2) |
| 退職給付に係る資産または負債に係る税効果 | 退職給付会計の数理計算上の差異 | 解消時の税率 | 税率が変更された年度に、その他の包括利益を相手勘定として計上する | 51項(2) |
| 子会社の持分変動による差額(資本剰余金) | 解消時の税率 | 税率が変更された年度に、資本剰余金を相手勘定として計上する | 51項(3) | |
| 子会社の資産・負債の時価評価により生じた評価差額 | 取得時の子会社資産の時価評価 | 解消時の税率 | 税率が変更された年度に、法人税等調整額を相手勘定として計上する | 52項 |
| 子会社の留保利益に関する一時差異 | 将来の配当に関する留保利益(海外子会社配当等) | 解消時の税率 | 税率が変更された年度に原則として法人税等調整額を相手勘定として計上する | 51項 |
| 取引の不一致 | 連結会社間取引の期ずれ | 解消時の税率 | 税率が変更された年度に原則として法人税等調整額を相手勘定として計上する | 51項 |
| 資産負債の消去 | 貸倒引当金の取消、子会社株式評価損 | 解消時の税率 | 税率が変更された年度に原則として法人税等調整額を相手勘定として計上する | 51項 |
| 未実現損益の消去 | 棚卸未実現利益、固定資産未実現利益 | 一時差異発生時の税率 | 修正しない(繰延法のため) | 56項 |
| 海外子会社 | ※海外子会社固有の一時差異については、現地の税率が適用されるため、日本の税率改定には影響を受けない | |||
↑追記、編集するかもしれません。
子会社取得時のPPAで識別した資産の税効果はどうなるか?
今回の記事は、個人的にこの部分が気になって書き始めました。
将来の実行税率が変わったら、開始仕訳が変わるのか?と思ったのです。
私の見解としては、適用指針のここを使うのだろうと判断しました。
52. 子会社の資産及び負債の時価評価により生じた評価差額に係る一時差異について、子会社において税率が変更されたことによる繰延税金資産及び繰延税金負債の修正差額は、当該税率が変更された連結会計年度において、法人税等調整額を相手勘定として計上する。
PPAで識別した資産は、識別したものなので、時価評価差額とは厳密には異なります。一方で、成り立ちから考えると、企業の持つ”超過収益力”を具体的な無形資産として識別したものなので、時価評価と近似しているかと思います。
この場合、計算式と仕訳はこうです。
これなら、開始仕訳にも影響が出ず、一安心です。
実行税率変更に関する注記
さて、繰延税金資産・負債の再計算に加え、注記が必要です。
税効果会計に係る会計基準
第四 注記事項
財務諸表及び連結財務諸表については、次の事項を注記しなければならない。
3. 税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額
4. 決算日後に税率の変更があった場合には、その内容及びその影響
注記には、修正した旨と修正額を記載する必要があります。
つまり、注記をする期の決算においては、再計算前(新税率適用前)と再計算後(新税率適用後)の両方の数値を計算しておく必要があります。
2025年3月中に国会で新税率が成立しなくても、財務諸表の開示前に改正されるとその内容と影響額の注記が必要になると思いますので、ご留意ください。
まとめ
今回のまとめです。法改正により実効税率が変わった場合に注意すること。
参考にしたリンク
補足文書「2025年3月期決算における令和7年度税制改正において創設される予定の防衛特別法人税の税効果会計の取扱いについて」の公表|企業会計基準委員会
ASBJ 企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針